
Interview with
Maria Sakurai
日頃のスケッチを通して生まれる個性的なキャラクター。
櫻井万里明インタビュー。
「みんなが見落としてしまいそうなものも、上手く表現すればちゃんと届く」。
そういう想いで日常的に行っているスケッチを通して、自らの感覚と向き合いながら作品に反映させている櫻井万里明。そんな彼女の描く絵には、ルーツが判別できないキャラクターが多く描かれているのだが、その世界には争いがなく、自由な空気が内在しているかのようだ。
個展やアパレルブランドなどのコラボレーションを通じて精力的に活動する彼女に、バックグラウンドや作品について話を伺った。
- Interview:
- Toshihito Hiroshima

───まず初めにバックグラウンドを教えていただきたいです。
福井県出身で1996年生まれです。高校1年生のときから滋賀県や大阪など関西に住んでいました。その後大学に入学するタイミングで東京に来ました。
───子供の頃に興味があったことを教えてください。
子供の頃から絵を描いていましたが、絵だけに興味があったわけではなく、運動をすることや映画を観ることも好きでした。私は3つ子で同い年の兄弟が2人いるのですが、お母さんの仕事が遅かったので、3人で本を読んだり映画を観たりすることが多かったんです。3人とも映画の趣味が一緒で、親が仕事から帰って来るまで近くのレンタルビデオ屋さんでビデオのジャケットの裏面を見て、これはどういう話なのか3人で想像しながら話していた記憶があります。それでジャケットを丸ごと模写したりもしていましたね。当時はジム・キャリーがすごく好きだったので顔を描いたりして遊んでいました。あとは近所の習字教室に通い習字に熱中してみたり、様々なことに興味を持っていましたね。

───高校生の時はどのような学生でしたか?
高校は進学校に合格して入学したのですが、色々な事情が重なり一週間くらいで中退してしまったんです。その進学校はみんな競争心が高くて、自分には合わないと思いました。その後に違う高校に転校をしたのですが、そこはヤンキーが多い学校でした。でもヤンキーのほうが「あの高校のあいつがぶつかってきた」とかそういう理由で喧嘩をしたりしていたけど、そっちの方がシンプルだし、清いと思いましたね(笑)。その頃はそれがわかりやすくて楽しかったですね。高校生の時は1人でいる時間が多くあったので、徐々に紙とペンがあれば描ける絵に興味を持ってたくさん描くようになりました。
───美術系の大学に行かれていたそうですが、そこではどのようなことを学びましたか?
私は美大に行っていましたが、美術以外のところでも多くのことを学びました。まず前提として、私が絵を好きな1番の理由は競争がないということです。絵には勝ちとか負けは無いじゃないですか。受験やスポーツの場合は勝ち負けがあり、多くの人が競争社会の中で生きていると思います。美大にはそういう競争社会からあぶれた人間しかいないと思っていたのに、いざ美大に入ってみたらみんな絵で競い合っていて、そこもまた競争社会であると思い知らされました。その時に、美大で一緒にいる子たちとは違うことがしたいと思い、ラップという違う方向に向かいました。競争からは外れるけど、そこで何かが磨かれてみんなが集まって中心になっていく感覚を作っていきたいと思ったんです。ラップは自分にとってクリエイティブで自由な表現だと思ったので、ラップを通して、他の場所からみんなが見直すような新しいものを作っていけるような気がしたんです。なので私は大学ではない場所で様々なことを学びましたね。

───ラップをやっていたのは意外ですね。詳しく教えてください。
ラップに興味を持ったのは、大学に入ってうまく絵が描けないタイミングでした。そんな時に、いつも話している言葉だったら自分を表現できると思ったんです。そして言葉を重すぎずポップに伝えられる表現は何なのかを考えた時にラップだと思いました。その時はフリースタイルが流行りだした時期でしたが、自分はスチャダラパーとかが好きだったし可愛いものが好きでした。そして掘り下げていったらキミドリというラッパーを見つけました。キミドリからはかなり影響を受けましたね。
───ラップの魅力はどういうところに感じますか?
ラップを聴いているうちにヒップホップのヒストリーやバックグラウンドについて考えるようになったのですが、自分の境遇と重なるところがありました。自分もあまり良い家庭環境で育ってこなかったのですが、そのような環境も味方になり、そこに人が集まるということをストリートカルチャーから教えてもらい好きになりました。ラップもそうですが、スケボーもグラフィティもお金がなくても楽しめるところが魅力です。自分の体と頭1つでどれだけでも楽しめるところが魅力的に感じています。

───これまでに影響を受けたアーティストを教えてください。
高校生の時に、近所のTSUTAYAの邦画コーナーで「ア行」から全部順番に見るということをやっていた時期があって、その時に伊丹十三という映画監督の作品に出会いました。伊丹十三監督の映画って主役以外の脇役の表情とか行動とか、背景のその奥まで感じさせる表現をしていて、世の中を主役と脇役に分けず、みんなが見落としがちな所にも誰かの人生があり、感情があるということを描いていました。そこから、私が何かを表現できる人間になったら伊丹十三監督のような作品を作りたいと思いましたね。

───様々なキャラクターが共存しているという部分では、櫻井さんの描く絵にも繋がっているような気がします。
私が描くキャラクターは、表情だけでなく、どういう生命体なのか、そしてどんな性別なのかもあえて分からなくさせています。1度観ただけで自分の解釈でジャンル分けをせず、想像力を持って作品を見ることで、自分の考え方も広くなるし、考えを広く持つことで自分の生活や人生さえも豊かになれると思っています。幼い頃、みんなが持っているラブベリーの筆箱が欲しかったけど買えなかったので、自分で可愛いと思うものを作ってみようと思い、近所の手芸店で無料でもらえる端切れをもらってきて筆箱を作ったりしていました。するとそれを学校に持っていくと流行ったんですよ。そういう経験をしたから、自分の行動を変えるだけで面白いものに変化したり、そして面白いものとして伝わるということを実感しました。なので自分の作品でも、みんなが見落としてしまうものも、上手く表現すればちゃんと届くと思って実践しています。それもあって様々なアパレルブランドとのコラボレーションも積極的にやっています。
───絵以外で夢中になっている事はありますか?
本を読むことが好きですね。家の近所に図書館があるのですが、そこはカフェも併設されているので休みの日は1日中います。文章は頭の中で想像を膨らませてくれるのでインスピレーションを与えてくれます。図書館で本を読んでいると、普段描く絵ではないものが頭の中で出来上がっていく感覚があって楽しいです。自分が伝えたいことは絵だけでは伝わらないので、絵1つ1つに普段みんなが使っている言葉で解説文をつけて、より分かりやすくして作品の世界観を知ってもらいたいと思っています。それは本を読んで言葉に触れる感覚と繋がっていると思っています。
───展示の際のステートメントを手書きで書くことがあるそうですが、そのことについて教えてください。
ステートメントを手書きで書くのは、パソコンやスマートフォンで打った文字はみんなが見慣れていて、流し見されやすいと思ったからです。でも手で文字を書くと、文字が息をしているような感覚が伝わってきます。パソコンで書いた文字よりも手書きの文字に立ち止まるっていうのは大切だと思っていますね。なので本当に伝えたいコンセプトがある時はあえて手で書くようにしています。

“REJOICE”
at:MU GALLERY

───昨年、寺田倉庫で行った展示についても教えてください。
昨年の11月に寺田倉庫の「MU GALLERY」で『REJOICE』という展示を行いました。人間が本来生まれ持っているものや、今まで経験した環境、バックグラウンドから来る直感に出会えた瞬間の喜びを絵で表現した展示でした。今の時代は以前よりもSNSが盛んで、タイムラインを見れば自分の感情を他人が代弁しているような感覚になります。そしてそれが自分の感情だと思い込んだり、多くの人が自分の感情に向き合わない方向に進んでいると感じます。自分が決めつけられていく感覚です。私はそれに対して危機感を持っています。人間の本能には時代が変わっても変わらないものがあると思います。一目見ただけで「この人は同じ匂いがする」とか、「話してみたら絶対面白そう」みたいな。そのような直感的であり本能的なものを表現した展示でした。

───櫻井さんの絵はあえてムラを残していますが、そのことについても教えてください。
私はボールペンでラフに描くスケッチが好きで気に入っているのですが、ボールペンでラフに描いたものって落書きだと思われて1つの芸術として理解されていない部分があると思います。ある時ボールペンの線をずっと見つめていたのですが、擦れていたり、溜まっていたり、様々な表情があるのに見過ごされていると感じました。そして見過ごされているものをあえて魅力的に伝えてみたら面白いんじゃないかと思い、わざと大袈裟に線を表現してみたんです。作品を写真で撮ったら綺麗に映るんですけど、写真で見ているものが全てではなく、ムラがある箇所などを実際に見ることで本来の姿がわかるような、フィジカルな体験が大事だと思って制作しています。

───このスケッチブックについても教えてください。
このスケッチブックは、文字やキャラクターなどを思いついた時に描いているものです。作家1年目から現在まで描いていて、今年で4冊目になりました。移動する時も常に持っていて、このスケッチから作品が生まれることも多いです。なのでこれはお財布よりも大事ですね。私は絵を早く描くタイプですが、他の作家さんよりも個展の回数が多かったり、来週までに完成させる必要があるブランドの仕事があったりするので、そういう時はこのスケッチブックを参考にして描いていますね。
───今後挑戦してみたいことはありますか?
2024年はキャンバス作品に重きを置いて自分の中にあるものと向き合い、そして自分の生まれ育った時から考えていたものを表現した年でした。2025年はそれを外に向かって分かりやすい形で、内側だけでなく外側まで届けていく活動をしていきたいと思っています。
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