Interview with
TRK

タイの仏教芸術を、現代のストリート・アートへと昇華

バンコクに生まれ、幼い頃から寺院の芸術を見て育ったアーティスト、TRK。

ブディズムの思想に裏打ちされた人生観と、タイの伝統とストリートを自由に行き来する感性が作品の隅々に息づいている。

神話の獣や人間、植物を描きながら“つながり”をテーマに表現を続けるその姿勢は、ローカルとグローバルをつなぐ架け橋のようだ。

Interview:
Ryosei Homma

──バックグラウンドについて教えてください。

タイのバンコクで生まれ、家族みんながアーティストの家系で育ったんだ。両親や親族はみんな絵を描いている。実家の周辺の500メートルくらいの範囲には、4つの寺院があって、子供の頃はいつもお寺が遊び場だったよ。

──絵を描き出したきっかけはなんですか?

家族が寺院の壁画や装飾を描く仕事をしていたから、自然とその伝統的な模様や芸術に囲まれて育ったんだ。絵を描くことは特別なことじゃなくて生活そのものって感じだった。子供の頃に覚えていることは、単純に絵を描くのが好きでよく描いていた。それで今でも描き続けているよ。

──自然と絵を描くことが生業になったのですね。

僕の一族は芸術を創造するために生まれたと考えている。それは愛であり、人生であって、僕TRKそのもの。もし俳優になれと言われたら、まったく似合わないよ(笑)。

──作品のテーマはなんですか?

僕の作品は物事の“つながり”について描いている。場所と場所や、思想と思想の間の目に見えないつながりについて。タイ人としてのアイデンティティの本質を、普遍的なスタイルで表現することを意識しているんだ。

──作品には神獣や人間、草花などが主に登場しますが、どのようにモチーフを選ぶのですか?

それは子供の頃に寝転んで見ていた寺院の壁画の記憶から来ていると思う。タイの寺院を訪れると、壁が仏陀や神々の物語だけを語っているわけではないことに気が付くはずだよ。自然や多種多様な要素も描かれているのが見てわかる。この世界は、想像上のものであれ、現実のものであれ、物語や伝説を生み出す生き物、動物、植物、人間などで満ちている。これらの要素が過去、現在、そして未来さえも形作っていると思うんだ。

──タイに深く根付く仏教思想が、あなたの作品や人生観を形作っているんですね。

仏教がタイで根強いのは、その教えが時代を超越しているからだと思う。例えば“執着しない”という思想、「不確実こそが確実である」という教えとか。人生に永続するものはなく、物事に固執せず、手放すことを学ぶ。だからこそタイ人は気楽でのんびりな傾向があるし、心に浮き沈みがあるのは当然だとわかっているんだ。特に好きな教えは、「信じることを行い、行うことを信じよ」というもの。僕は常にこの考え方で芸術的なクリエイティブを行ってきた。僕は常に仏教芸術や寺院からインスピレーションを得て制作しているんだ。仏教はタイ人の生活に深く根ざしていて、誕生日や学業、就職の祈願、結婚式や葬儀まで絡んでいる。先進国では古臭い伝統と見なされがちかもしれないけど、タイでは生活の一部として自然に存在しているよ。

──タイのアートシーンについて教えてください。

タイには他の国と同様に、ファインアートからストリートアートまで、あらゆるジャンルに多くの才能あるアーティストがいるよ。正直、僕はタイの多くの偉大な芸術家に比べれば、まだまだ小さな存在なんだ。この国のトップクラスのアーティストになるまでには、まだまだ道のりが長いよ。

──あなたはギャラリーも運営していますよね。なぜそういった場所を作ったのか教えてください。

タイで有名な美術大学の教授が友達にいて、彼とギャラリーを作って運営しているんだ。共に創作活動を行い、頻繁に交流する中で「様々なジャンルのアーティストが集い、アイデアを共有し、良質なコミュニティを楽しめる場を作るべきだ」というアイディアが出た。そうして〈Payaq Gallery〉が誕生したよ。確立した作家から、新進気鋭のアーティストまでが繋がる空間なんだ。

──HIROTTONとコラボレーションを行っていましたが、どうしてその企画が生まれたんですか?

6年前に東京で、アーティストのカツマタヒデユキと一緒にエキシビションを開催したときから始まっている。その時に僕は中野のFATBROSのオーナーであるハギさんの家に泊まらせてもらっていた。そんな中、マネージャーのキキがエキシビションで見たクールなアーティストについて話してくれたことがあった。彼女は僕が彼のスタイルを気に入るだろうって口ぶりだった。翌日、ハギさんが僕をそのショーに連れて行ってくれて、そこで初めてHIROTTONの作品を見たんだ。それはとても素晴らしく、その瞬間にインスタグラムで彼をフォローし始めた。約5年後、キキやキシ(HIROTTONの友人)と会うことがあって、僕たちが一緒にエキシビションを開いたら面白そうだという話になった。その会話が今回のエキシビションにつながったんだ。HIROTTONのスタイルは非常に力強くてユニークだよね。彼の作品は、彼の個性とライフスタイルを真に反映していて、それは僕の国では本当にクールで珍しいものなんだ。彼とコラボレーションできて幸運だと思っているよ。

Painting with Hideyuki Katsumata in Payaq Gallery

──影響を受けたアーティストはいますか?

世界的に知られたタイの巨匠、タワン・ダッチャニーは大好きだね。それと80年代からスケートボードのグラフィックをデザインしているロックアートの伝説、ジム・フィリップスには大きな影響を受けていて僕のロールモデルのひとりなんだ。

──自身もスケートをしていましたか?

実際に滑っていたのはだいぶ前だけど、子どもの頃に乗っていたデッキがジム・フィリップスのデザインだった。そこから彼のグラフィックにはずっと惹かれてきた。一方で、今タイのスケートシーンはすごく盛り上がっているよ。以前はバンコクが中心だったけど、現在は地方など様々なエリアに広がって、小さなインディペンデントブランドも次々に生まれている。ローカルから新しい動きが育ってきているよ。僕はタイの〈Preduce Skateboards〉と2010年ぐらいから深く関わっているんだ。僕が『Dubway』というパーティーのために描いたアートワークを〈Preduce〉のオーナーが気に入ってくれて、「一緒にやろう」と声をかけてもらった。それ以来、彼らの活動に関わりながら、タイのスケートシーンを形作る一員として一緒に歩んでいるんだ。

at Baan Preduce, Bangkok, 2022

──絵を描くこと以外に好きなことは?

走ることが好きかな。ランニングは新しい場所を探索して、アートのインスピレーションを見つける方法として始めたんだ。通りや路地を走ると、たくさんの面白いものを見つけることができる。立ち止まってよく見て、また先に進んで探検を続けることができる。だけど最近は怪我であまり走れてないんだ。もし回復したら、日本でも走りたいよ。

──今後、やりたいことはなんですか?

僕の目標は、次世代にインスピレーションを与えるアーティストになることかな。そのために今は勉強をしていて、学士号を取って将来的には美術教授になりたいと考えているよ。

【イベント情報】

“Believe It or Not?”
HIROTTON & TRK duo exhibition

会期 :
2025年11月8日(土)〜 2025年11月16日(日) *月、火曜日休廊
時間 :
13:00 – 19:00
会場 :
SORTone
住所 :
東京都渋谷区神宮前2-14-17
Instagram :
@sortone_fort
*Opening reception: 2025年11月7日(金) 18:00 – 21:00

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