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Jeremy Yamamura

無数のドックで表現される、ジェレミーの人生観

Interview: Ryosei Homma

自分の人生観をドック(犬)を通して描き起こすJeremy Yamamura(ジェレミー・ヤマムラ)。

彼自身の人生の旅路を探求し、人生の喜びや悲しみ、そしてその間にあるすべての瞬間を壁画からキャンバス、立体物まで多様なメディアで表現している。

今回はSORTone FUKUOKAでの展示に合わせてインタビューを敢行。自身の作品や人生観について赤裸々に語ってくれた。



ペインターになろうと思ったきっかけは何ですか?いつからペインターとして活動しているのですか?

子供の頃からずっと絵を描いたり、ペイントしたりしてたんだ。話すのがあまり得意じゃなかったからペンと紙に没頭していたよ。2000年代初頭にグラフィティに出会って、ストリートで活動を始めてから状況は一変したね。そこから同じキャラクターを何度も何度も描き続けるようになった。キャンバスの作品や展示は自然な流れで始まって、2010年後半ぐらいからこの趣味が本業になったんだ。ぺインターになろうと明確に決めていたわけじゃなくて、物事がうまく噛み合ってスムーズに発展していった感じかな。

あなたのバックグラウンドについて教えてください。

テックス・エイヴリー(Tex Avery)などのカートゥーンやコミックを見て育ったんだ。そこからコミック・アーティストになりたいと思ってアニメーションを学び始めたよ。それがきっかけで、後にモーショングラフィックスや映像制作に惹かれていった。当時はミュージックビデオの黄金時代(ミシェル・ゴンドリー(Michel Gondry)、クリス・カニンガム(Chris Cunningham)、スパイク・ジョーンズ(Spike Jonze)など)で、そこからイギリスのエレクトロニックミュージックを知ったんだ。〈Warp Records〉や〈Ninja Tune〉みたいなレーベルの熱狂的なファンになって、そのクリエイティブな中心地にもっと近づきたくてフランスからロンドンに移住した。数年後、最終的に東京に行き着いて、そこで15年以上にわたりモーショングラフィックデザイナーや映像のディレクター、アニメーターとして、ミュージックビデオ、CM、ライブ映像、イベントやテレビ(紅白、MTV、NHK、Nike、Abemaとか)向けのモーショングラフィックスプロジェクトとか、色々なプロジェクトに携わってきた。同時に、好きだからっていう理由で自分の犬のキャラクターを描き続けてたんだけど、その趣味が転じて今日に至るまで本業になったんだ。


キャラクターの造形が特徴的で少しグラフィックぽさも感じるのは、そういったことから影響されているからなんですね。

映像とモーショングラフィックスで美術学士号(BFA)を持ってるけど、グラフィックデザインやタイポグラフィ、ロゴタイプにも興味があったんだ。俺が所属してるグラフィティクルーの年上の人たちは本当に魅力的で、グラフィティに対してよりグラフィック的なアプローチをしてたから、それが何らかの形で俺に影響を与えたんだと思う。俺たちのモットーは、ワイルドスタイルやカラフルなものよりも、生々しくシンプルに、よりミニマリストでグラフィックなアプローチを保つことだった。学校を卒業してロンドンに移ってから、VJ、モーションデザイナー、グラフィックデザイナーとして働いていたよ。それから2004〜2005年にかけて、あの有名なショーディッチ・マップのアートディレクションも担当して、2006年に東京に移る前にロンドンで最初の個展を開催したんだ。

最終的になぜ日本に住もうと思ったのですか?

日本に住むと明確に決めたわけじゃないんだ。ロンドンで日本人と出会って、数ヶ月の旅行のつもりだったのが、一生モノの経験になった。2006年に東京に移ってからは、友人ができて、楽しいプロジェクトやアクティブなナイトライフのせいで離れがたくなったんだ。あまり計画をきちんと立てるタイプじゃなくて、「どうなるか試してみよう」って感じの人間なんだよね。

日本とフランスにはアートに対する捉え方や美的感覚に違いを感じることはありますか?

日本には美意識について他の国と大きな違いがあると思う。2005年の初めての東京旅行では、マキシマリスト的な美学に衝撃を受けた。とにかく情報量が多すぎるんだ!それはすごく攻撃的だと感じたね。大音量のトラックが走り回って、あちこちから声が聞こえて、店内のたくさんの看板や音ですごく疲れるけど、同時にこのジャングルで生き残るための訓練にもなる。フランスでは物事はもっとミニマル、それにシンプルで、人々にそれぞれの空間とペースを与えてる感じ。フランスではロゴタイプやシンプルなモノクロのグラフィックが一般的だね。日本では基本的にほとんどすべてがキャラクターベースで、それは俺にはすごく刺さる文化だった。カワイイ文化が至る所にあり、微笑んでて、環境をすごくフレンドリーにしてる。ここで何年も過ごしてきたけど、この前大きなピンクのゴミ収集車が目の前を通り過ぎるのを見て、自分が微笑んでることに気づいたんだ!このアプローチが気に入っているんだ。世界はすでにすごく暗くて厄介だから、そこにビジュアルでハッピーな美学が存在していることがいいんじゃないかな。





インスピレーションはどのようにして得ていますか?

身の回りのすべてからインスピレーションを得ているよ。映画、音楽、社会生活、おしゃべり、個展やイベントとか、あるいはただぶらぶらすることとかね。東京は無限の雰囲気の混合物のようなものだね。一つの場所にすごく多くのものが詰まってる。賑やかな中心地のすぐ隣の裏通りに足を踏み入れると、静かで地元の人しかいない、訪れる人も少ない一角に浸ることができる。俺はそのコントラストが好きだった。俺自身、東京のサブカルチャーの中でも最も強力なコミュニティの一つに溶け込んでるんだ。すごくローカルでありながら常に歓迎してくれて刺激を与えてくれる。音楽は俺にとってキーだしDJもやるから、その空間と俺を本当につなげてくれて、そこから一生モノのインスピレーションを得てるんだ。


モチーフに犬を描く理由はなんですか?

俺がストリートで描き始めた最初のモチーフなんだ。だからキャラクターの犬は最初から俺と一緒にいるよ。もちろん、彼は今では年を取ってかなり成熟したけど、それでも最初の頃と同じで、楽しくて遊び心のあるエネルギーを持ってる。グラフィティ・アーティストとして始めたから、物事を考えすぎたり、深刻に捉えすぎたりすることはない。それから俺の犬には名前がない。重要なのは、できるだけ多くそれを世に出すこと。質より量だね。それに対する計画やブランディングは全くなかったし、長年経って気づいたのは、犬はまさに自分自身だってこと。あちこちにいて、人々とつながり、楽しんで、旅を共有してる感じかな。


作品の主なテーマを教えてください。

テーマは人生だと思う。日常生活、初期の瞬間、明るい時も暗い時も含んでいる。イギリスのエレクトロニック・ミュージック、オルタナティブ・ヒップホップ、ドグマ95(映画運動)、ヴィンテージアニメーションやミュージックビデオ、グラフィティムーブメントに強く影響を受けてきたから、おそらく俺の作品の中にそれらすべてを何らかの形で感じ取れるかもしれないね。での個展『Roller Dogster』では、外に目を向けるんじゃなくて、今回は自分の頭の中を掘り下げて、なにが俺を今の俺であるようにさせているのかを振り返ることにしたんだ。トラウマに基づいた個人的な作品、暗い時期とポジティブな時期、そして気持ちを高揚させる作品もある。浮き沈み、そしてその間のすべて。犬のひねりを加えた人生のジェットコースターだね。 それから最初のフィギュア「So Fresh So Chic, Chic」も今回はリリースしたんだ。これは、スプレーをしに出かけてた時に一番よく聴いてたアーティストであるアウトキャスト(OutKast)への賛歌だよ。圧倒的な反響で、初日に完売してしまったよ。


好きな作家や、アーティストについて教えてください。

グラフィティを始めた頃は、Jace、Andre、Space Invader、Mr. Chat、Pez、La Mano、Os Gemeos、Barry McGeeみたいなアーティストが好きだった。俺は常にグローバルな観客に語りかけるような、あのハッピーなヴァンダル・プロパガンダ(破壊的な宣伝活動)のアプローチが好きなんだ。それはヴァンダリズム(破壊行為)だけど、ポジティブだよね。同じキャラクターを何度も何度も広めていく。最近では、Roby Dwi Antono、Bozo、Taylor Anton White、Laust Højgaard、Van Minnenみたいなアーティスト、そしてもちろんGOAT(史上最高)のGeorge Condoを尊敬してるよ。

たくさんの壁画も描かれていますが、ギャラリー内での展示と外壁のペインティングでは色の使い方や、モチーフ、視点などに違いを持たせますか?

壁画とギャラリーでの展示は俺にとっては違うものだね。同じ情熱とエネルギーを使うけど、ギャラリーの展覧会は、特定の観客に作品を発表するため、より個人的で自己挑戦的なものだし、ショーごとにステップアップすることが目標なんだ。壁画など外でのアプローチはよりグローバルな観客のためのもの。絵が完成し、壁が出来上がったら、それはもう俺のものじゃなくて、コミュニティのものだ。壁画は、楽しく、カラフルで、人目を引くように心がけてる。女の子たち、子供たち、そして全世界にそれを気に入ってほしいと思っているよ。

近い将来の計画や、アーティストとしての具体的な目標はありますか?

普段はあんまり目標を設定しないようにしてるんだ。そうすれば達成できなくてもそれほどがっかりしないからね。俺の喜びは、ただ自分の犬をもっと世に広め続けることかな。ギャラリーワークは常にエキサイティングで挑戦的だし、もっと屋外でペイントしたり、好きなブランドやアーティストとコラボレーションしたり、もっと多くのプロダクトを作ったりしたいとも思ってる。すでにいくつかのプロジェクトが控えているよ。6月には大阪での空間デザインとアニメーションのポップアップ企画、進行中のコラボレーションショー、そしておそらく年末には台湾でこれまでで最大の展覧会があって、それに伴う特別なプロダクトのリリースも予定されてるんだ!未来は明るい、ドッグはグッドだよ!





【ステイトメント】

驚くべき高揚感!そこから心が潰されるような絶望、じわじわと上昇していったと思えば突然の急降下!

人生はまるでジェットコースターのよう-あるいは、ジェレミー・ヤマムラの世界で言うならば『ローラー・ドッグスター』。

混沌、驚き、不意打ちが連続するループ。

レールは制御不可、乗客はただそれを受け入れるのみ。

でも結局のところ、すべては人生を楽しむためにあるのだ!




【アートショー情報】

“Roller Dogster”
Jeremy Yamamura Solo Exhibition
住所:福岡県福岡市中央区大名1丁目2-51
会期:2025年3月28日(金) – 4月20日 (日)※水曜日休廊
時間:12:00 – 19:00
会場 : SORTone Fukuoka
Instagram:@sortone_fukuoka
 

Jeremy Yamamura

1981年、フランス生まれ。2000年代初頭、ボルドーで映像学の学士号を取得、地元のストリートクルーとの活動や個人プロジェクト「DOGZZZ」を開始。ロンドンでUKベースミュージックシーンの中心に身を置きながら05年に初個展を開催する。06年から日本を活動の拠点としNike、Beats、MTVなどの大手企業のアートディレクターやモーションアニメーターとして活躍。紙、キャンバス、ウッドボード、アニメーションなど様々な媒体を使って、ギャラリーでも作品の発表を継続的に行っている。

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