Interview with
Nana Soeda

無名な影の存在を
油画やオブジェクトに優しく落とし込む

1994年生まれのアーティスト添田奈那。街で見かけた無名のキャラクターから影響を受け、日の目を浴びない存在への眼差しを見出している。作品を通して表現される怒りや悲しみはまさに優しさの裏返しのようだ。そんな彼女にバックグラウンドや作品について聞いた。

Interview:
Toshihito Hiroshima
Photo:
Hidenori Matsuoka

───まず初めに、絵を描き始めたきっかけなど、バックグラウンドについて伺いたいです。

東京出身ですが、引っ越しを繰り返していたので地元という地元がないんです。さらに私は一人っ子なので地元の友達や兄弟と遊ぶという経験がなく、一人で絵を描くことくらいしかやることがありませんでした。高校を卒業してアニメーションを学ぶために美大に行きましたが、色々違和感があり一年ほどで中退しました。その後、イギリスの美大に通い始めて、そこではパフォーマンスデザイン&プラクティスという専攻だったのですが、そこは、表現者がそれは「舞台」だと認識すればアウトプットは自由だったので、私はそこでアニメーションも一つの舞台だと言い張って制作をしていました。

───アニメーションに興味があったのですね。

もともとディズニーやカートゥンネットワークなどが好きで、自分でもアニメーションを作ってみたいという欲求がありました。昔から動物やキャラクターなど、人物とは違った形状に惹かれていて、それが今の作風にも繋がっています。

──何か影響を受けたものはありますか?

街中にある看板などのマスコットからインスピレーションをもらっています。歯医者の歯の形をしたマスコットや公園などによくある飛び出し注意の看板に描かれているキャラクターなど、名前のないマスコットの写真を日々撮りためています。それらは、何かの既視感は感じるけれどはっきりと特定できないところが面白いです。私の作品では、そういったシルエットから着想を得て、どことなく懐かしさを感じる新しいキャラクターのようなものや概念を作るという試みをしています。

──あまり日の目を浴びないものに焦点を当てているのですね。

例えば、偽物のドラえもんとかたまに見かけるじゃないですか。あれはほとんどの人が偽物だとわかるし、クオリティも高いわけではないことが多いのに、誰かの手によって生み出されている。私はそこに愛おしさを感じています。うっかり生み出されてしまったモノみたいで、誰かが彼らに愛を持たなければ、という気持ちになります。

──Gallery 〇〇(ほにゃらら)について教えてください。

Gallery 〇〇(ほにゃらら)は半蔵門ANAGRAや馬喰町BAF Studioをはじめ、現在は西荻窪で予約制の鑑賞室HAITSUを運営する細野晃太朗さんと共同運営しているギャラリーです。山梨県北杜市にある複合アート施設「GASBON METABOLISM」内の一角に存在しています。Gallery 〇〇は毎月4日間だけオープンしていて、その期間中は必ず私か晃太朗さん、あるいは二人ともがそこにいます。きてくれた人とコミュニケーションをとって、作品やお互いのことを丁寧に伝えることを心がけています。〇〇はギャラリーでありプロジェクトで、ギャラリーを運営し、展示をつくり、訪れる方々と対話をすることで生まれ、ギャラリーの内外装自体も変化し続けるひとつの作品としてとらえています。

Gallery 〇〇過去の様子
Gallery 〇〇現在の様子

──4月に行われたBLACX BOXでの展示について教えてください。

BLACX BOXでの展示は、Gallery 〇〇(ほにゃらら)を都内に出現させた企画です。某有名ブランドのブートレッグのカバンや時を経て価値の付くものになったchampionのリバースウェーブなどに私がペイントを施し、ファッション的価値からアート的価値への変換を試みた企画でした。 ファッションとアートの間には薄ぼんやりとした壁があると感じていて、実際にBBに来たお客さんやスタッフの方と話をしていると展示に行ったことがない人がほとんどで映画や文学といったポピュラーカルチャーにすら興味が無い、接点がないという状況でした。そんな中、支持体をキャンバスから鞄や服に変えたことで一気に彼らにとっての生活、身近なものになったんです。そうすることによってすごくシンプルに「かっこいい!やばい!」って感想をたくさんもらえて。ギャラリーから声がかかり展示をすることに慣れすぎていたのでこういうシンプルで純粋な反応をもらえてとても嬉しかったです。彼らがギャラリーに来てくれることを待っていても何も変わらない。こちらから彼らのフィールドにリスペクトを持って寄り添って行くことである種の壁を壊せるんじゃないかとすら思えました。これはとても大きな収穫でした。

Gallery 〇〇 at BLACX BOX

──描いている作品について詳しく教えてください。

私は「チープ感」をテーマにキャラクターやマスコットをモチーフのひとつにして作品を制作しているのですが、多分見る人によっては私の作品はちょっと怖かったり、居心地が悪く感じると思います。モチーフの「街中で見つける名前のないマスコット」たちは「知る人ぞ知る」ような存在だと思っていて。彼らの存在感が、なんとなく私自身や身の回りの人たちに重なるな、と思ったんです。例えば自分の環境に不満があったとして、勇気を出して声をあげても軽くながされてしまうこともあって、さらにそういったことを我慢する風潮が「大人」とか「社会人」だとされがちなのが嫌なんです。常に笑顔でいるマスコットやキャラクターのように、私たちは機嫌よくいることを強いられることがあるけれども、たまには素直に泣いたりしてもいいんじゃない?と。感情をおもてに出すことは体力もいるし、歳を重ねれば重ねるほど大変なことですが、なにかが変わるには、もしかしたら怒ったり泣いたりする必要もあるのかもしれない。だから、私のつくる彼らの表情はいつも複雑な表情をしています。

──ラフなドローイングを描いているようですが、そこから作品が生まれているのでしょうか?

紙のドローイングはこれまでにルーティーンとして200枚以上は描いていて、自分の中ではトレーニングのような感覚です。街中のキャラクターを再構築して新しいものを作るということをひたすら続けています。キャンバス作品に取り掛かるときは、過去のドローイングで描いたモチーフやシルエットを、頭の中の引き出しから取り出すようにして思い出しながら描いています。その際、記憶を頼りに再構成するためか、少し形が変わっていくのが面白いところです。

──他の作品についても教えてください。

何度かぬいぐるみの作品を作ったことがあります。幼い頃からぬいぐるみが好きなのと、私は何かを作りたいと思ったら作らずにはいられないタイプなので、手縫いで一から作っていた時期もありました。その後、晃太朗さんとアートとしてのぬいぐるみを作ってみようという話が出て、ひとつのぬいぐるみを作品として制作しました。クラウドくん(ちゃん)とタイトルをつけているのですが、あえて性別は特に決めていません。手に入れてくれた方や子どもがクラウドくん(ちゃん)にまたがって遊んだりしてくれています。

──ブランドとのお仕事もされていますか?

去年はラコステの「マイ ラコステ アーティストプログラム」にて、Tシャツやトレーナー、帽子などのコラボレーションアイテムを手掛けました。普段から自分でTシャツなどを刷ったりすることが好きでよく作っていましたが、コラボレーションを通じて、多様なアイデアや技術に触れることができ、私の想像を超える素材によってモチーフが立ち上がっていく過程は刺激的で貴重な体験でした。

──今後の展望を教えてください。

どんな形であれずっと何かを作っていけたらいいな、というのが今の気持ちです。自分のために作り続けていたものが、それを見てくれていた人のためにもなれていたらもっと嬉しいです。

Latest Post