Issue #74
Fall 2024
夕焼けの雲をモチーフにしたキャラクターを神出鬼没に出現させるアーティスト
Interview: Hidenori Matsuoka
“夕焼けの雲”をモチーフにした「FA(ファ)」を、どこにいく時も遊びに連れていく247POKO。FAは郊外の壁に描かれたと思えば、立体物となって街中で自立することもある。ときにはナスカの地上絵のように地面にすら現れる。本人はどれも思いつきだというが、ストリートアートが持つALL CITY(都市全域、拡散性)などの概念を無意識に実行しているのだろうか。遊び心とオルタナティブな表現を探求する247POKOのインタビューをお届けしたい。
—では始めに自己紹介をお願いします。
鹿児島県の出水市出身で1993年生まれです。今は東京と鹿児島の2拠点で生活をしています。鹿児島に倉庫があり、そこに電動工具とかがあるので、大きな作業は鹿児島で行い、東京で色塗りなどの仕上げをしています。
—どういう経緯で247POKOの活動が始まったのですか?
子供の頃から図画工作が好きで、高校時代は本格的ではないですが絵を描いたりノートに落書きをしたりしていました。大学の経済学部を卒業して地元で1年間就職したのですが、やはり絵を描きたいと思い、仕事を辞めて福岡に行きました。そして飲食店でバイトしながら、友達のつながりなどでイラストなどの仕事をたまにもらえるようになったんです。あと、UNION SODAというスペースでもバイトを始めたんですが、最初の設営がKYNEさんと山口 歴さんの合同展だったんです。そこでアートへの入り口を教えてもらい、徐々にイラストとか商業的なものじゃなくて、純粋なアートをやりたくなり、今のような作品を作り始めたという感じです。
—その時はすでに名前は247POKOで決まっていましたか?
決まっていました。僕の名字は珍しくて萬福(まんぷく)って言うんですよ。高校3年生の時に仲良かったギャルの友達が僕のことをあだ名で「マンポコ」って言い始めたんです。ギャルのマインドが好きだったのでこのあだ名は大事にしようと思って「マンポコです」って自分でも言ってたんですが、大人になるにつれてなんか響きがエッチだなと思って(笑)。それでアーティスト名を考える時にポコだけにしました。247はラッパーみたいな感じで頭になにか文字が欲しいなと思って、ラッパーの名前で「オールデイ」という名前が付くラッパーがいて、「オールデイ=Twenty four seven」って結構いいなと思って「247」と付けました。
—アイコンのFA(ファ)はもう生まれていたのですか? 改めてFAのコンセプトを教えてください。
FAは福岡で働いている時から描いているイラストの一個でしたね。一時期、身近にあるペットボトルとか何にでも顔をつけるみたいな遊びをしていて、FAはそのうちの一つで一番しっくりきたんです。FAのコンセプトはマジックアワーなんですよ。福岡の夏の夕方の空って綺麗なムラサキ色に染まるんです。鹿児島だと赤とかオレンジみたいな色に染まってて、東京はミルクティーっぽい色に感じたりします。僕はその福岡のムラサキ色の空に浮かぶ、夕日でサーモンピンクに染まった雲が好きで、それをイメージしたものです。
—そうだったのですね。夕日が好きなんですか?
マジックアワーは日中の終わりだけど、夜の始まりというか、死ぬけど生まれ変わるみたいな。そんな感覚がして好きなので、良いモチーフだなと思いました。
—FAの名前には意味はあるんですか?
FAは特に意味がなくて、安直にこのキャラクターを描いてSNSに載せようとした時に何か名前をつけようと思って、フワっとした感じの名前ならいいなと思い、ふとこの名前にしただけですね(笑)。
—影響を受けたアーティストや身の回りの人っていますか?
影響を受けた方はたくさんいるんですが、福岡のZEROSYさん、ギャラリー二本木のMATSUO SHINJIさんからはかなり影響を受けました。ZEROSYさんは僕の地元にもタトゥーを彫りに来ていたので、僕も彫ってもらっていたんです。僕はZEROSYさんに出会うまではグラフィティをやったことがなかったんですが、一緒に描きに連れて行ってもらったりしました。それでグラフィティとかストリートアート全般に興味を持ったんです。二本木のMATSUOさんとの遊びは同じ空間で一緒にモノづくりをする事が多くて(「遠足, 2021」や「was here, Oita, 2022」など)MATSUOさんの視点は自由度が高く 僕の街の見方も柔軟になりました。僕はストリートアートが好きなんですが、性格的にリスクがあまり好きじゃないんですよ。なので、まだ開拓されていないストリートアートの可能性を探してる感じです。
—それが今の独特な作風に繋がっているのですね。
そうですね。例えば、絵を描いたら消すのが大変じゃないですか。でも紙やステッカーだったら剥がしやすい。あと描く場所を選びます。街じゃなくて廃墟に描けばリスクも下がるしゆっくり描ける。そうやってリスクのバランスを考えなが活動しています。
—田んぼを燃やして空撮している作品はすごいアイデアですよね。
あの当時はとにかくでかいのが描きたかったんです。佐賀に旅行に行ったときに田んぼで稲を燃やす「野焼き」を見たんです。それを見たときに「これで絵を描ける」と思ったんです。僕の家族でお米を作っている田んぼがあるので、一番偉い祖母にやりたいことを説明したら「いいよ」って言ってくれて実行に移しました。ただ、撮影するためにドローンを飛ばさなきゃいけないんですけど許可が必要で。すると出水自動車教習所の松島晋也さんがドローン教習所もやっていて、その方が協力してくれて許可もとることができました。インスタグラムの編集の時に縦横12マスのグリッド線があるんですけど、あれを田んぼにも同じようにビニール紐でグリッドを引いて目印にして、FAの形と照らし合わせるように藁を寄せ集めてラインを引いていったんです。それを燃やして、撮影はぶっつけ本番でしたね。
—あれは強烈でしたね。というかいろんな人の協力のもとに成り立ってたんですね。リスクどころか仲間がいたとは。しかもおばあちゃんまで(笑)。
ドローン空撮、着火式、鑑賞してくれた地元の友達兄貴達の協力のおかげで完成したので、一つのプロジェクトを通して多くの人たちとコミュニケーションが生まれた事が面白いと感じました。“デカい”をテーマにした作品ですが、制作の過程で“コミュニケーション”というテーマに変化したと思います。
—あと、FAを連れていろんなところを歩いている写真もありますよね? FAが神出鬼没なキャラクターとして街のいたるところに存在し、それを写真に撮ることもストリートアート的なアプローチなんですか?
あんまり考えてなかったです(笑)。でも自分のタグをいろんなところに露出するっていうフェイマスゲーム的な意味で言ったら似てるかもしれませんね。僕は無意識で、FAが動いたら面白いかなって思っただけで、あれは「遠足」っていうプロジェクトなんですよ。福岡のSTEREO COFFEEで展示しているときに、展示中の作品を写真に撮って「遠足に行ってきます」と張り紙だけして、植物園に行って写真を撮って帰ってくるということをしました。
—表参道には立体作品もいましたよね?
あれも原宿での展示中で、お昼ご飯を食べに行く時にちょっとオブジェを持って行こうと瞬間的に思いついたものなんです。表参道を歩いたからプロジェクト名も「Omote Sanpo」っていうタイトルにしました。基本的には思いつきで遊んでる感じです。持ち運んでるだけなのでノーリスクですし。あと地元の屋外広告を一ヶ月だけ契約して、ただFAを載せたりもしたことありますね(笑)。
—アイデアが自由で面白いですね。では今回、HIDDEN WALLのために作品を制作してもらいましたが、制作した絵について教えてもらえますか?
これは街のトレースがしたくて描いた絵です。交通標識のポールに、年に一回定期検査のときに貼られるシールがあるんですが、それと僕が作ったFAの小さいステッカーのサイズ感が結構一緒だったので、その点検シールを見つけると紛れるように貼っているんです。今回はその写真をトレースしました。背景は奥行きが出るように暗めの葉っぱを描いています。そしてもう一つはBARの上に設置するので、ボタニカルをイメージした作品です。植物とタイルを描いて、屋内にFAが浮いてるイメージですね。
―今回はどういう展示にしたいとかありますか?
FAの作品はもちろんなんですけど、これまでのいろいろなプロジェクトの作品を知ってもらいたいので、写真や動画も用意しようと思っています。エンタメっぽい概念遊びができるような、みんなが楽しめる展示にできたら良いなと思っています。