Kaido Racer Exhibition
BadBoyAuto & Park Baker

日本のカーカルチャーを再定義する試み
バッドボーイオート & パーク・ベイカーインタビュー

「街道レーサー」と題された展示が、東京の代官山の「Studio 4N」で2025年7月25日~8月3日まで開催された。「街道レーサー」とは1970年代から80年代にかけて生まれた日本独自の車のカスタムカルチャーであり、近年、その影響は世界各地に広がりを見せている。そんな「街道レーサー」をモチーフに展示を行った仕掛け人であるBadBoyAutoパーク・ベイカーに行ったインタビューをお届けしたい。

Interview:
Toshihito Hiroshima
Photo:
喝徒飛競争車 & BadBoyAuto

──まず初めに、今回の展示の概要や実現したきっかけについて教えてください。

BadBoyAuto (以下B) : 今回の展示を行ったきっかけは、自分が街道レーサーやストリートカルチャー、アートなどに興味を持つ中で、双方の文化に相関性を感じることが多く、その視点をプレイヤーであったり、このカルチャーを知らない人でも知ってもらえるきっかけになればという思いで企画しました。昨年の秋ごろに、代官山蔦屋書店をはじめとする複数の会場で行った『#wheeeels』という展示に参加させてもらったのですが、その時に街道レーサーの人たちが作っている車の存在を初めて知った一般のお客さんにも興味をもってもらう事が多く、手応えを感じていました。今年に入って「Car Service」の橋本奎さんから「Studio 4N」での展示のお誘いをいただき、会場全体を通して世界観を伝えられるよう、街道レーサーオンリーの展示を企画しました。キュレーションにおいて、自分にとって「街道レーサー」を更に好きになるきっかけを与えてくれた方々の作品を集めて展示を行いました。


──簡単に街道レーサーの文化について教えていただけますか?

B: 街道レーサーは、1970年代から1980年代にかけて富士スピードウェイで行われていた「富士グランチャンピオンレース」を見るために一般のファンが自分達の改造した車を見せ合っていたところが始まりです。派手なマフラーやウイング、塗装などが特徴で、そのムーブメントは、雑誌「ホリデーオート」の「oh!my街道レーサー」という投稿コーナーによって全国に広まりました。そして雑誌に掲載された人を含めた改造車やギャラリーが集い実際に交流を深められた場が、「富士グランチャンピオンレース」の会場でした。

──今回の展示は総勢で11人のアーティストが展示をしていましたが、どのようにメンバーが集まりましたか?

Park Baker (以下P): 今回展示したメンバーは、SNSで連絡を取り合って実際に会い、そこからイベントで会う回数が増えるごとに仲良くなっていった人たちです。私は今回展示をしていた全員と会っていますが、同じく展示をしたアレック・ウィーンズは高校の時にたまたま私がやっていた「HIGHTOPFADE」というブログを見てくれていて、そこに影響を受けて海外で街道レーサーのカルチャーを発展させていたようです。なので今回の展示のメンバーはそのような人との繋がりで集まりましたね。

B: 今回の展示は、ただ車が好きだという枠を飛び越えて表現活動をしている人を選びました。カーカルチャーをアートとして捉えて作品を制作したり表現したりする人の割合は、日本人よりも海外の人の方が多いと私は感じています。車をカスタムする時に、かっこいい車を作りたいというのはみんなあると思いますが、一緒に展示をしたアレックさんはHUFのクリエイティブディレクターとして活動していたり、ケビン・レイトゥ・ローリーさんもエアブラシアーティストとして活動しながら、実際にクルマやバイクの改造をライフスタイルに落とし込んでいます。クルマとアートやデザインなど、複数のジャンルを往来しながら生み出される制作物は実車も作品も新鮮ですし、魅力的です。そのようなアーティストの視点を日本で見てもらうことで、新しい視点でカーカルチャーを見たり、取り組む人が増えたらいいなという気持ちがあります。

──改造車の文化は日本ではあまり良い印象で見られていませんよね。実際に皆さんが内部で見ているとどのような印象を受けますか?

P: 多くの人が持っている街道レーサーへの印象は、危ない人が乗っているなど、否定的なイメージを持っている人も多くいるかもしれません。みんなが抱いているイメージはニュースで映る検問や悪い側面ばかりが取り上げられ、暴力的な行為と結びつけられているかもしれません。ですが、私はそのような場面を一度も目にしたことがありませんし、このカルチャーのアート的な側面を共有したかったのです。

B: 実際に私が会ったオーナーさんのイメージは、単純に車が好きな人が多い印象です。スタイルを追求して一台の車が作られているので、車に対する情熱が強ければ強いほど改造車が好きな人が多いと感じていますね。

──2人が街道レーサーに興味を持ったきっかけなど、バックグラウンドについても教えてください。

P: 私はアメリカ出身で幼い頃から車がずっと好きでした。車への興味は映画から始まった気がします。特にカーチェイスのシーンが好きで、『キャノンボール』とか『ブリット』などの車の映画をよく観ていました。そして実際に車の集まりにも遊びに行っていました。ホットロッドとかローライダーなど目立つ車がいっぱい集まっていて、その写真を撮っていた記憶があります。その後、日本車にも興味を持ち始めました。そして実際に日本に引っ越し、日本車の集まりを観に行きました。クラシックカーショーに行って綺麗な車がたくさん並んでいるのを見てそれも良かったのですが、そのイベントの帰りに一般駐車場に行ったら街道レーサーの車がたくさん集まっていて、その造形やカラーリングに大きな刺激を受けたことを覚えています。そこからその車を実際に作っている人たちと仲良くなって、街道レーサーの集まりに誘われるようになりました。そして2010年よりフォトブログのプロジェクトである「HIGHTOPFADE」を始めました。

B: 私も幼少期の物心がついたときから車が好きで、親の運転する車の助手席から景色を見ることが好きでした。普通の車が走っている中でたまにクラシックカーとすれ違ったりして、見たことのないデザインに小さいながらも興味を持っていました。当時はネットも身近ではなく、情報を得る手段が雑誌しかなかったので、小学校に上がった頃から車の雑誌を読みました。専門誌だから最初は難しいことはよくわからなかったけど、興味を持っていた車がたくさん載っていることが刺激的で本屋に行くのがその頃の楽しみでした。街道レーサーとの出会いは古本屋さんで見つけた『ヤングオート』という雑誌です。興味を持った頃には既に休刊していて、リアルタイムの情報ではなかったもののこんなクルマを作る人達が実際にいるんだと衝撃を受けましたね。自分たちで全部作っていることにも驚きました。免許を取ってからは集まりやミーティングを観に行くようになり、そこで写真を撮ったり、オーナーさんと繋がっていきました。

──ストリートカルチャーと街道レーサーが似ている点は何かありますか?

B: どちらも路上を用いた表現という点に共通点を感じます。スケボーで例えるなら、スポットで技をメイクする最中に驚備員が来たらキックアウトされるじゃないですか。街道レーサーもパーキングで完成したマシンを披露しあってる最中に警察が来たらキックアウトされるし。更に改造の度合いによっては、不正改造による摘発や、最悪の場合、強制没収のリスクもあります。制約がある中で、自己表現をするところに共通点を感じますね。また、街道レーサーには福岡仕様とか道東仕様など、地域名が付いたスタイルやチーム名、地元を掲げたカッティングステッカーを貼り付けたマシンがあったり、地元をレペゼンするという行為からはグラフィティやラップと近い精神性を感じます。

P: 私はストリートカルチャーと街道レーサーの似ているところは、お互いただ好きなことをやっていて、クルーがあるというところです。街道レーサーもみんな友達を集めて車を作ろうみたいなところがあるので、そこが似ていると思います。そして友達同士で楽しみながらスタイルを追求しているところも似てますね。

──2人が作っている作品についても伺いたいです。

P: 今回は「G.C. playground」という作品を厚紙と色紙などの素材で作っています。街道レーサーには様々な車のベースやスタイル、カラーリングがあるので、そこを見せたいと思いました。今回の作品の作り方が、子供の頃描いていた絵を連想させます。みんな幼い頃はラフな形の車を描くし、コミカルなイメージがあるので、そこが街道レーサーの車とマッチしていると思いました。タイトルの”G.C.playground”は「富士グランチャンピオンレース」の略称から取っています。当時改造車が集まったメインスタンド裏をイメージしました。なので作品の真ん中には会場の象徴的存在である BRIDGESTONEのアーチをオマージュした作品を飾りました。

B: 今回の展示では、私自身が立ち会った街道レーサーにまつわる光景を油絵で表現しました。マシンが完成した時の光景を描いた作品の中心には、逆光で影のシルエットになったオーナーがいるのですが、心臓部分に僅かに赤を入れて描くことで、長年思い描いた改造の構想が叶った瞬間の心の高なりを伝えようとしています。街道レーサーの創造性や熱量は本当に美しいものです。ただ歴代街道レーサーの作ってきたマシンは改造車好きの文脈でしか語られることはなかった。そこに絵画の視点が加わることで違った世界の人にも文化を知ってもらうきっかけが作れたらいいなと考えています。

──他の方がどのような作品を展示しているか簡単に教えていただきたいです。

B: ガリードライアンとアレックの3人はカリフォルニアに住んでいて、みんな同じ「Beautiful Boy Racing」というクルーのメンバーです。みんな家が近いこともあり、一緒に車のカスタムを楽しんでいます。彼らは写真やグラフィックを制作していて、考え方がすごくセンスがあると思いました。ガリードとライアンが写真作品、アレックがポスターと映像作品を制作しています。

B: 中村ミツノブさんは、FRPで車のボディーメイクをしている方で、今回は過去に制作した街道レーサーに装着していたパーツを展示していただきました。Haruki Obata さんはHAMITAIMEDIA 名義で旧車にまつわるライフスタイルを映像に落とし込んで発信をしている方ですね。後は autongraphicとして活動するロッドさんです。彼は写真作品を展示していて、日本の街道レーサーの雑誌をすごく勉強している方です。ケビンさんはカーカルチャーやストリートアートに根ざしたエアブラシの作品を発表していて、「CheckPoint」は、カナダに拠点を置くメディアハブ兼ライフスタイルブランドです。今回は映像作品と写真作品を展示していました。そして喝徒飛競争車さんは、街道レーサーの記録を行う写真家で、今回は写真作品を展示していました。

──では最後に、今後にやってみたいことや、展示の予定などあれば教えていただきたいです。

B: 今後やりたいことは紙媒体を作るプロジェクトです。私はコレクションした雑誌のお気に入りのページを定期的に見返す習慣があります。人の記憶に残り続けて見返してもらえる、そんな雑誌が作れたらいいなと思っています。ワールドワイドな文化になった今だからこそ、国内外のシーンを切り取ったカッコよくて面白い雑誌が作れると確信しています。出来上がった本は出展が決まっている、「TOKYO ARTBOOK FAIR 2025」でリリース予定です。

P: もう一つ、みんなで協力して1台の改造車を作ってみたいという目標もあります。昔はチームのみんなで力を合わせて1台の車を作ることも多かったと聞きました。最近できた私たちのグループはみんなアイデアが面白いから、各々のセンスを融合して1台の車が作れたら最高ですね。

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