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Jeremy Fish

サンフランシスコを拠点に、スケートボードなどのイラストからギャラリーでのファインアートの作品展示まで、20年以上に渡り独自の存在感を放つアーティスト

Interview: Ryosei Homma

うさぎを被った骸骨や、旅をする羽の生えた心臓。かわいいものと不気味なものなど、本来組み合わさることのない素材を大胆に配置することで我々のステレオタイプにユーモラスに訴えかけるアーティスト、ジェレミー・フィッシュ。物語を語るように描かれた彼の作品は、どれも不思議な後味を感じさせるもので、そこには忘れてはいけない大切な何かが含まれているように感じる。サンフランシスコを拠点に、スケートボードなどのイラストからギャラリーでのファインアートの作品展示まで、20年以上に渡り独自の存在感を放つジェレミー・フィッシュに話を聞いた。

―まずあなたのバックグラウンドを教えてください。どのような少年時代を過ごしましたか?

ニューヨークのアルバニー(Albany)で生まれ、ニューヨーク州で最も古いスケートパークがあるサラトガ スプリングス(Saratoga Springs)で育ったんだ。カリフォルニアに引っ越す前はそこで何年も働いていたよ。母親が図書館の司書だったから、俺のアートワークに最も早く影響を与えたのは児童本の挿絵だと思う。子供の頃はコミックやアニメを見たり、友達とスケートボードをしたり、街のストリートで時間を過ごすことが大好きだった。素晴らしい思い出だよ。

―絵を描き出したきっかけはどのようなものですか?影響を受けたものを教えてください。

絵を描くことは俺が子供の頃に唯一得意だったもので、家族は俺が小さい頃からこれが俺の将来の仕事になるとわかっていたようだ。1970、80年代のコミックやアニメ、児童本、グラフィティ、スケートボードのグラフィックなどを見ていると、絵を描きたいという気持ちになっていたよ。

―サブカルチャーに入るきっかけは何でしたか?過去にThink SkateboardsやSlap Magazineで働いていた経験がありますが、それがサブカルチャーに入る大きなきっかけになりましたか?

11歳でスケートボードを始めた。それが俺の人生やサブカルチャーにおいてキャリアを形作る一部となった。高校時代にはスポンサーがついていたけど、プロになるほどの実力はなかったんだ。それよりも裏方としてカルチャーに貢献することに興味があった。カリフォルニアに引っ越してアートスクールに通い、最終的にはスケートボードのグラフィックを描く仕事に就くのが10代の頃の夢だったよ。だから19歳のときにこのキャリアを追求するために3,000マイルも離れた場所に引っ越したんだ。アートスクールではプリントメイキングの学位を取得して卒業した。スケートボード業界ではThrasher、DLX、Think Skateboardsが所有するスクリーンプリント工場に就職し、デッキ、Tシャツ、ステッカーなどのプリントを管理した。プリントショップからやがてThinkのアート部門に異動になり、まもなく『Slap Magazine』で毎月イラストを担当することになった。この2つの仕事によって、俺のアートワークは初めて世界中に広まり、俺の人生は永遠に変わることになったんだ。

―アーティストとして独立し生計を立てる事ができるようになった経緯について教えてください。

ThinkとSlapで何年も働き、俺のアートを楽しんでくれるスケーターたちが世界中に広がっていった。そして、世界中のギャラリーやブランドからアート展や商業イラストの仕事をもらえるようになった。その結果、自分のファンベースができ、自分ひとりでもやっていけるという自信がついたんだ。そこで俺はThinkでのフルタイムの仕事を辞め、在宅でイラストレーションの仕事とギャラリーやミュージアムのためのオリジナル・アートの制作を両立させるようになっていった。Thinkは、俺が20年近く前に経験した最後のフルタイムの仕事だった。彼らが俺のために開いてくれた扉と、10代の頃の夢の仕事を実現させてくれたことに、今でもとても感謝しているよ。

―あなたの作品は擬人化された動物や都市、人工物などを組み合わせたものが多いです。作品によって意図する意味は違うと思いますが、これらの作品の一般的な意図、あなたの解釈について教えてください。

俺の作品では、歴史上の寓話や伝説の中で使われてきたのと同じように動物を使っているんだ。例えば、ウサギは速く、カメは遅く、キツネは狡猾で、ライオンは王様みたいな感じかな。題材は社会的な話であったり、歴史的な話であったり、時にはとても個人的なものであったりする。俺はこれらの動物、物、乗り物を、小さな物語を語るように組み合わせているんだ。

―作画の構図やバランスが素晴らしい(過去に建築を学んだから?)です。このスタイルを築き、継続して成長させ腕を磨いていくモチベーションや、そのインスピレーションはどこから来ていますか?

俺は建築を学んだのではなく、ファインアートを学び、スクリーン印刷を専攻したんだ。作品にバランス感を出すために、シンメトリー(左右対称)を使うのが好きなんだ。ドローイングとスクリーン・プリントは今でも俺の主要な媒体であり、残りの人生も進化と向上を続けるだろう。俺の人生の現段階では、最も奇妙な場所でインスピレーションを見つける。歌、経験、映画、人、場所、そして真実の愛さえも。

―世界的に有名なミュージシャンやラッパー、カンパニーなどとコラボレーションをしてきました。スケートボードのグラフィック提供は400枚を超えます。印象に残っている仕事はありますか?

サンフランシスコのために、そしてサンフランシスコの街に関する作品を数多く手がけてきた。それが俺のキャリアの中で最も誇りに思っている作品だろう。俺はこの街を愛し、街は俺を愛し返してくれる。街との関係はとても不思議で特別なものなんだ。

―絵を描くこと以外の趣味は?その他に好きな音楽や本、映画などあれば教えてください。

俺の生活の全ては作品に集中しているよ。家族もあまりいないし、仕事以外の趣味もあまりない。ヒップホップが大好きで、ライブにもよく行くんだ。自分の住んでいる街や近所のナイトライフが大好きなんだ。小さなギャラリー兼スタジオを閉めた後、街でアイデアをスケッチしたり、テキーラを飲んだり、友達とぶらぶらするのが好きだよ。愛猫、母と妹、そして悪名高いシリー・ピンク・バニーズの仲間たちが大好きなんだ。

―好きなアーティストや影響を受けたアーティストについて(カリフォルニアにはさまざまなOGのアーティストが住んでいますよね。バリーからあなたの友人のMIKE GIANTまでローカルの作家とはどういった交友関係がありますか。)

バリー・マッギーは、サンフランシスコに引っ越してきたときに大きな影響を受けた。同じアートスクールに通っていたけど、会ったことはない。友人のマイク・ジャイアント、トッド・フランシス、トラヴィス・ミラード、マイケル・シーベン、その他多くの人たちから大きな影響を受けているよ。

―コロナ禍で世界がストップした際に、作家としてローカルのお店にフリーでアートワークの提供を率先して行っていましたよね。始めようと思ったきっかけは?またあなたにとってサンフランシスコはどのような街ですか?

先ほども言ったように、サンフランシスコは俺の作品や人生に大きな役割を果たしているんだ。歴史上特別な時期に、この街でキャリアを積めたことに感謝しているよ。俺は自分の作品を使って、この街の地元のビジネスをサポートすることができているし、それはあるレベルでは、サンフランシスコが長年にわたって俺に与えてくれたものすべてに恩返しできているような気がする。Covidの期間中、俺は多くのスクリーンプリント版をリリースし、それを販売し、その利益で失業中のバーテンダーや政治活動、当時苦境にあった多くのビジネスを支援した。パンデミック後の最近の時代にも、この資金調達の手法を使って多くの活動や個人を支援し続けている。

―今回、我々の「ペンは剣よりも強し」というお題に対して、表紙用に描き下ろしてくれた作品について教えてください。

表紙用に描いた2つの絵のテーマは頭と心。それは僕が自分の頭や心に耳を傾けているからなんだ。重要な決断を下すときは心の声に耳を傾けるのが最善策だよ。

―最後に自身のスタイルを追い求める若き作家にアドバイスをください

決してあきらめないこと。このテクノロジーとソーシャルメディアの時代において、自分の芸術的な声を見つけることはとても難しいことだよね。俺たちは毎日、他のアーティストのイメージにさらされていて、それらは自分がやっていることに影響を与えやすい。最初のうちは尊敬するアーティストの真似をする。その後、自分の声を開発し始め、インスピレーションを受けたアーティストから自分のスタイルが育っていく。もしあなたがとても幸運で、情熱的で、超ハードワークであれば、最終的にあなたのスタイルは、あなたの後に続く世代に影響を与え、この地球上のアーティストのサイクルは成長し、進化し続ける。俺はスタジオで毎日、通るべき道を切り開いてくれた先人たちに永遠に感謝しているよ。

Jeremy Fishのプロフィール

Jeremy Fish(ジェレミー・フィッシュ)は絵画の学位を取得し、スクリーン印刷を中心に学び、その学歴と職歴からファイン・アーティスト、商業イラストレーターとしてのキャリアを形成してきた。スケートボード、Tシャツ、ヴィニールトイ、アルバムカバー、定期刊行物のイラスト、壁画、スニーカーなどのデザインを手がけながら、アメリカ国内だけでなく、国際的にギャラリーや美術館で作品を展示している。アートワークは主にストーリーテリングとコミュニケーションをテーマとし、キャラクターやシンボルのライブラリーを通して語られる。キュートなものと不気味なものの中間にあるイメージのバランスを見つけることに重点を置いている。ジェレミーはリトル・イタリアと呼ばれるノース・ビーチを拠点に、20年前からサンフランシスコに住んでいる。

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